06/12/13

Joan Jonas « Reanimation » @Galerie Yvon Lambert, Paris / ジョーン•ジョナス « Reanimation »

Joan Jonas

Reanimation
April 27-May31 2013,
Galerie Yvon Lambert, Paris

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Joan Jonasは1936年ニューヨークに生まれ、彫刻を学ぶ傍ら、現代詩および中国文化とギリシャ神話やその伝承に興味を持つ。コロンビア大学でファインアートの修士号を取得すると、60年代半ばより、Warhol、John Cage、Allan Kaprow、あるいはフルクサスのメンバーたちやBruce Naumanらが精力的に活動を繰り広げるニューヨークの前衛的なムードの中にジョナス自身も参入し、これらの新しい芸術から得た刺激が、彼女をパフォーマンス•アートへと導いた。

Joan Jonasはそれまで一貫してポップ•アートとミニマリズムにもっとも強い影響を受けてきたのだが、1970年代始めの作品ーMirror Piece (1971)ーにおいて、女性の身体を見たことのないような仕方で描き出すと同時に、空間と音の可能性を探るような実験的でコンセプチュアルな方法を模索する。あるいは同年に発表された最も重要な作品、Organic Honey’s Visual Telepathy(1971)では、表現のコンセプトをプロセスとて淡々と鑑賞者に見せることを徹底し、ミニマリズム的枠組から完全に脱出した。「女性によって演じられる女性イメージ」を探求するため、Joan Jonas自信が奇妙なドール風マスクをまとって、フィクションとしての別のパーソナリティーを演じる。親密さとナルシシズム、イデアとしての女性のジェスチャーやコスチューム、それらがときに主観的に、あるときは皮肉なまでに客観的に描き出される。Joan Jonasは、フェミニズムのアーティストとして、しばしば自らを見つめ、語りかけるようにして、女性のイメージ、身体とアイデンティティの問題に取り組み、ある一つの文化や社会の女性像を越えていくような新しく不思議なディメンションをもった女性像を表明している。彼女は、民族伝承や中国や日本などアジアの文化、あるいは神話や歴史など幅広いソースから得たインスピレーションを、ヴィデオ、デッサン、写真、オブジェクト、音楽、パフォーマンスという多様なメディアを組み合わせることによって作品として織り成す。
Joan Jonasのパフォーマンスについてはまた別の機会に改めて、他の作品にも言及しながらお話しすることにしたい。

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さて、今回Galerie Yvon Lambertで2013年4月より展示されたインスタレーション作品 « Reanimation 2 »(2012)は、実は昨年、六本木のギャラリー WAKO WORKS OF ARTにおいて2月から1ヶ月間に渡り展示会が行われたので、そちらでご覧になった方もいらっしゃるだろう。そもそも、この作品« Reanimation » は、2012年6月−9月のdOCUMENTA(13)(Kassel)のメイン会場の一つであるKarlsaue Parkで展示された。公園内に設置された木小屋は、dOCUMENTA(13)のキュレーターであるCarolyn Chritsov-Bakargiefの提案でアーティストに与えられたのだが、彼女はその小屋の窓をスクリーンとして作り直し、4面のスクリーンを通じてヴィデオ作品« Reanimation »(In a Meadow)ヴァージョンを創り出した。

photo by Nils Klinger (Hyperallergic)

photo by Nils Klinger (Hyperallergic)

この作品は、アイスランドの作家Hallfor Laxnessの小説« Under the Glacier’に着想を受けて2010年より制作が始められた。人間には触れえない絶対的な自然の姿や動物たちの命を描くLaxnessの小説と、しかしそのGlacierは今日の世界において溶け出し、地球全体に異変を及ぼしつつあるというJonasの想像力を混ぜ合わせ、その世界観を彼女の解釈によって再表象したものだ。

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dOCUMENTA(13)では、Glacierから二つのビデオ、もう一面にはFishのビデオを展示。残りの一面、最も大きなスクリーンには2012年に制作されたばかりの、Reanimation(2012)を展示した。氷と黒インクを使ったドローイング、氷は徐々に溶けていって黒インクはのばされながら、しかしどこまでのばされても決して透明にはならない。吊り下げられた無数のクリスタルがキラキラするフォトジェニックなスクラプチュアがアイスランドの秘境を彷彿とさせる。また、雪の粒というよりもむしろ氷の粒といえるほど透明な地面に黒インクで描き、そのインクが一瞬にしてその表面で冷たい粒と化すさまは、言語描写の限界を超えて、あまりにも美しい。

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Joan Jonasの展覧会を訪れる楽しみは、もちろん作品を前にパフォーマンスを伴っていれば彼女の身体のムーヴメントとヴィデオインスタレーションが生み出す生きた物語であるのは言うまでもない。純粋に展覧会について述べるなら、それは彼女のインスタレーションの空間に応じた様々な変化である。たとえば、Galerie Yvon Lambertでの展覧会« Reanimation 2 »と、dOCUMENTA(13)(Kassel)は、そのプレゼンテーションの仕方がまったくことなる。dOCUMENTAでは、鑑賞者は小屋の内側に入ることは出来ず、窓の外からスクリーンを覗き、さらにその家の中に展示されたデッサンやクリスタル彫刻を覗くことによって、極北の秘境を内側に向かってのぞき見する形をとっていたが、Galerie Yvon Lambertでは、鑑賞者はあたかも、物語の禁忌を犯すような大胆なシチュエーションに投げ出される。Laxnessの小説の内部、人間が足を踏み入れてはならない秘境にこっそり侵入し、本来見ることの出来ないはずの自然の営みや命の姿を盗み見る。そして、その大切なものが溶け出し、破壊されている様子すらも目の当たりにすることを強いられる。われわれは、温かく平和で、危険の無い「内側の世界」で、彼女が「外側の世界」のことを問いかけているのに耳を傾けるだろう。そして、その親密な語りは、我々の「内側」をとおりぬけて、それぞれの物語としてあつまり、やがて静かな音楽のように響き渡るだろう。

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*WAKO WORKS OF ARTのインスタレーションからGalerie Yvon Lambertでの展示を行うにあたり、Jonasは木枠と和紙で作ったスクリーンを利用し、日本の障子のような演出を施した。これは、より構造の内部にいるかのような鑑賞効果を高め、鑑賞者がダイレクトに映像に出会うためのアイディアである。

*dOCUMENTA(13) Reanimation (In a Meadow)
*WAKO WORKS OF ART Reanimation