09/9/19

ホメオパシー(同種治療)について 6  ホメオパシーは妊産婦の味方?

ホメオパシー(同種治療)について 6 
ホメオパシーは妊産婦の味方?(2019年9月9日)

こだわりや詳細な知識あるいは信仰を持たずに、ひょっとするとそれがなんであるかさほど疑問視することもないままにホメオパシーを試したことがある人の中には、それが妊娠と出産をめぐるコンテクストだったという人も多いはず。ホメオパシーは、フランスでは2019年現在で、なんと半数ほどの大学の医学部や薬学部で教えられている。つまりそこでは、ホメオパシーを専攻してディプロむを取得することが可能だ(http://www.psychomedia.qc.ca/sante/2019-07-06/homeopathie-enseignement-universitaire)。しかし、これまでも述べてきたように、現行の実験ではホメオパシーがプラセボ(偽薬)以上の効果がないことなどを理由に、「似非科学」「似非治療」と罵る厳しい批判の声が尽きず、複数の大学でホメオパシー教育に終止符を打って、全面的に廃止する動きが起きている。

一方で、ホメオパシーを処方する助産師(sage-femme)の数は増え続けており、2011年処方が合法化された当初、24%であったホメオパシーを主として処方する助産師は、2013年では42%まで増加している。この背景には、人手不足かつキャリアが正しく認められていなかった助産師の社会的権利と医療実戦における権利の見直しと拡大がある(http://www.doctissimo.fr/html/grossesse/accouchement/15349-droits-sages-femmes-elargis.htm)。あまり知られていないが、助産師になるためには5年間の専門教育が要求され、これは一般医や歯科医と同様であるのに関わらず、助産師は薬の処方や処置の点でかなり限られた権利しか持たない。そこで2011年以降何度か起こった権利見直しのための運動の結果、助産師は新たに、妊婦の胎児の問題に関わる抗生物質、授乳の痛みや問題に関わる治療薬、つわりや頻尿の問題、生理痛の問題、産後の避妊などについて、ホメオパシーのリメディーを含め、薬の処方の拡大が認められたのだ(助産師が処方できる薬のリスト:https://www.legifrance.gouv.fr/affichTexte.do?cidTexte=JORFTEXT000024686131)。

この権利拡大のきっかけとなった助産師たちの運動の背景には、妊産婦から薬処方の強い要求があるにも関わらず何も処方できない状況があった。妊娠中、あるいは授乳中は、食生活、経口薬はもちろんのこと、塗布薬に至るまで制約がある。私自身の妊娠期の経験では、つわりの症状が強く出て、それも2ヶ月ほど続いたので、産婦人科医が検診のとき、「症状を抑えるような薬は何にも飲めないし、つわりに薬なんかないのよ、そのうち治るんだから大丈夫よ」と彼女が言い放った際、本気でイラっとした。そして、そんなことがあって良いものかと本気で思った。そこから、たとえ薬の処方がデリケートだったとしても今日こんなにも医療が多方面に発達し、研究が進んでいるのだから、女性の妊娠期の不快感(時に悠に不快感を通り越して、苦痛といっても過言でない)に対して何も対処しようとしないのは、産む女性を「苦しむべき存在」と見なすような、「産み出すのは苦しくて当たり前」と古臭いマッチョな美徳をなおも押し付けるような恥ずべき実状じゃないのか!と深く憤るまで感情が高まったのを熱さが喉元過ぎた今ですら全然忘れていない!世の中の女性たちよ、<当たり前>、<仕方ない>、<そういうもの>、とか甘んじてないで奮起しようよ!絶対ちゃんと効くお薬が人類には作れるよ!と本気で思った。というか今も思っている。現状は絶対(苦しんで生むべし美学に基づく)怠惰の結果なのである。しかし、女性は妊娠期の直後(つまり出産の後)新生児を抱えてたちまち大変忙しくなってしまうので、残念ながら(あるいは怠惰でマッチョな人たちには幸運なことに?)、過ぎてしまったつわりの苦しみや妊娠期の不調に対して今後の人々のためにマニフェストするエネルギーも時間もないのだ。そうして、今日まで「苦しむのが当たり前でしょ」というフレーズがまかり通っている。ホメオパシーの話題からちょっといやだいぶ逸れているが、もう一度言いたいのだが、女性は(あえて苦しみたい場合を別にして)生むために苦しまなくてもいい、と思う。

さて、この話で何を言いたかったかというと、妊産婦は摂取できる薬が大変限られた(あるいはほとんどない)状況におかれているので、心身の不調をきたした時、これまでいとも簡単にお薬を飲んで不調をサクッと改善して生きてきた人々は、かなりパニクる。なすすべがないなんて?苦しいまま過ごさないといけないなんて?そこに、ホメオパシーが提案される。完璧なシチュエーションである。これしかない、というわけだ。産婦人科医は処方しないだろうが、そこで困って助産師に相談しに行けば処方してもらえるというわけだ。

ちなみに、また繰り返して申し訳ないが、私はホメオパシーを馬鹿にするためにこれを書いているのでない。困った時にホメオパシーを処方されて症状が緩和した、助かった!という人やそもそもホメオパシーを実践している人の肯定的な証言を無下にする気は無い。症状が改善したなら良かったし、効かなかったら残念だと思うだけだ。

ただ、強調するのは、ホメオパシーは妊産婦に処方される時、それは唯一の可能な投薬として処方され、彼女らはしばしば妊娠という非日常的で(多くの場合慣れてもいない)身体の異常事態に直面してしばしばパニクっているので、ホメオパシーはこのタイミングで、なんていうか、もうあるだけでたいそう有難い代物として登場する。よく知らない人も疑い深い人も、本当に困っている時の唯一のお薬として提示されたホメオパシーをやってみないわけにはいかないだろう。だってやって損はないのだから。だって本当に困っているのだから。そういうわけで、思うに、ホメオパシーの居場所が妊産婦の体調管理であり助産師による処方が主流なのは大変わかりやすいなあと思う。