ホメオパシー(同種治療)について 9(2019年9月13日)
脱線 その2 「葉脈が浮き出ているタイプのキャベツを買いなさい。」
そういえば、せっかく乳腺炎がらみで処方されるホメオパシーをひたすら列挙したついでに、処方箋には記載されないのだが、とにかく勧められたケアについて、この機会に書き留めたいと思う。実は、この記事はホメオパシーについて書いているけれども、この(ちょっと冗談みたいな)脱線2はそこそこ大事な話だと思っていて、なぜなら、個人化された医療であるホメオパシーはひたすら繰り返している通りエビデンスがなくプラセボ同等とみられているけれど、そもそも一人一人が異なる個体である個人の身体をさらにはその生活習慣や環境まで全体を見渡して処方を行うホメオパシーでは、リメディーが効いたか効かなかったか、結局その個人でしか実験不能なところがあって、つまり、実践したその人にとって効果があったと認識されれば、それは薬が症状に働いたというに十分なのである。したがって、以下に書くキャベツの話は、それこそ日本ではコテンパンに言われてきた民間療法だけれども、今日でも大真面目に推してくる助産師がいて、一定数以上の授乳中の女性がキャベツでケアしたことがあり、そのうちの一定数以上の患者が「キャベツ湿布は効く」ことを経験していることを踏まえ、白菜でも小松菜でもチコリの葉でもなく、「キャベツ」がなぜ乳腺炎で湿布に使えと言われるのか、いや、別にキャベツが他の野菜に対して特殊だということを言いたいのではなく、むしろ、ただのキャベツがどうやって一定数以上の痛がってた女性を救ってきたのか、考察してみたい。
話を始める前に、「は?なになに、キャベツキャベツってさっきからなんの話?」という方のためにざっくりキャベツにまつわる歴史的な療法を紹介しよう。
一聞すると、風邪の時梅干しをおでこに貼るといいとか、ネギを首に巻いて寝るといいとか、おばあちゃんの知恵袋ちゃうん?と思えるのですが、「乳腺炎の時(乳房が腫れて熱を持っているとき)キャベツの葉を乳房に貼りなさい、炎症が取れて乳の出が良くなるよ」というのがあるのです。おばあちゃんの知恵袋じゃなくて、医療のプロである助産師に大真面目に言われる。え、キャベツ?ときき返そうものなら、目の奥をまっすぐ見つめて、「葉脈が浮き出ているタイプのキャベツを買いなさい。」と彼女は言う。はあ、葉脈の浮き出てるタイプのキャベツ、あれね。(画像を参照。普通の白キャベツじゃなくて、葉っぱがもこもこと盛り上がってヴォリュームのあるやつだ。)
キャベツによる療法とは、熱を持っている乳房に冷やしたキャベツの葉を湿布することで、熱や痛みを緩和し、乳腺の詰まりを解決しようとするものだ。さて、調べても、なぜキャベツが(他の葉菜じゃなくて、どうしてもキャベツが、しかもどんなキャベツでもいいわけじゃなくて葉脈のもこもこのキャベツが)優れた効果をもたらしてくれると断言されてるのか、どうやって乳腺の炎症を取るのか、乳腺の詰まりがどんなからくりで開通するのか、キャベツが私の乳に何をしてくれるのか、正直一切わからない。(葉脈のモコっとしたキャベツじゃなくても白キャベツでもいいと言う人もいる)あまりにわからないので、探求は続く。そうすると、日本でもキャベツ湿布は助産師のカリキュラムの中に登場するほどポピュラーな療法であることを知ったけれど、同時に、それはエビデンスの無さから今日ではだいたい「こんなものを真面目に薦めるなんてありえん」と一掃されていることも知った。(さらには日本のキャベツ湿布は乳首の部分は穴を開けて貼るように指導しているらしいことも知った!)
疑問は尽きない。
・葉は一回きりで効き目がなくなってしまうので次々新しい葉を使うべきなのか、それともなんども使えるのか。
・何度も使い回しできるとして、どうしたらいいのか。冷やしたら効き目がチャージされるのか。
・何分くらい乳房に当てていればいいのか。
・何という成分がどう炎症に作用するのか。
彼女は自信満々に言った。「処方したホメオパシーはもちろん、キャベツはむちゃくちゃ効くから、帰り道キャベツを買ってすぐに実践しなさい!授乳前に毎回貼るといいわよ!葉脈のモコっとしたやつね!」
キャベツだけに優れた乳腺の炎症を取るための成分があると、私は思っていない。ひょっとしたらパラレルワールドではキャベツじゃなくてアスパラだったかもしれない(いや、棒状の形状では胸に貼れないし不便だからそれは無理か…)同時に、大真面目な助産師さんたちと助産師さんたちに「いや~、こないだ教えていただいたキャベツ湿布、めっちゃ効きましたよ!」とキャベツ湿布サポーターとなった患者さんたちが嘘を言っているわけでも、物事の効果を見極められなくなっているわけでも、非科学的な物事が大好きなわけでも、ないと思う。彼女らにとって、キャベツ湿布は窮地を救ってくれた代物だったのだろう。つまり、<効いた>と認識されたんだろう。その限りで、キャベツ湿布は、その役目を十分にになったことになる。例えば、何の客観的エビデンスがなくて、成分とか効能が立証されてなくて、全く効き目がないと述べる人がたくさんいたとしても。
ちなみに、効く効かないの前に、別に毒はなそうなキャベツ湿布を批判するもっとも説得力ある説明だと、野菜の表面には多数の細菌が付着している可能性があって、生野菜をまだ食べないし腸内細菌の発達や消化機能が未発達の新生児や乳児が、キャベツ湿布のせいで乳房に付着していた悪い細菌(リステリア とか)を摂取してしまったら危険だ、と言うもの。キャベツにどんな細菌がついている可能性があるのか、詳しくないのだが、何とも恐ろしくなる説明である。
まとまりのないキャベツ湿布談義になってしまったが、私の結論は以下である。
キャベツには、乳腺炎に効く成分があるわけじゃないと思う。ただし、キャベツ湿布に救われた切羽詰まってた女性がたくさんいるのは馬鹿げたことじゃなく本当だと思う。キャベツ湿布のポイントはキャベツの葉っぱのちょうど素晴らしい形状とひやっとする温度と、(葉脈がモコっとしたタイプならなおさら素晴らしい)ひんやり感を効果的じわじわに乳房に伝えるテクスチャーだと思う。キャベツ湿布の効き目は以下のように分かれる:
キャベツ湿布実践の結果、
①ひんやりして気持ちが良かった・熱が取れた・実践しているうちに乳腺炎が落ち着いた(偶然、タイミング的に)=キャベツはすごい!
②良くならない・症状が悪化した=キャベツなんか効かねーよ!
このいずれかである。ネガティブフィードバックは助産師の個人のキャビネットではなかなか吸い上げにくいだろう。なぜなら、全然効かなかったら、同じ医療者のところに戻ってこないかもしれない可能性が多いから。一方で、効いたら、そのプロのところにまた戻るから。だから助産師たちはポジティブフィードバックをこの件に関しては耳にしやすいと私は予測する。
今回キャベツの話ばっかりだったのだが、効き目の判断の下りなんかは、特に、効く人と効かない人の両方がいて、どちらも嘘つきなんかじゃないと言う点については、私たちは割といろいろなことを、一つが正しければもう一方は誤っていると言いがちな価値観を植えつけられていることを思い出して、そうとも限らんと一歩後ろに下がって考えてみるために、意味があるのではないかと思う。