月子

月子

 

個人的なことを書きます。私自身のことであり、別の誰かのことでもあり、むしろ私とそのもう一人の人についてのお話をしようと思います。今から書くことはしたがって、本当の話のようでもあり、私の記憶がしばしばそうであるように、曖昧で朦朧としたものであるために、知らないことを書こうとするがために作り話のようでもある、そんなとりとめのないものです。

 

私には高校の時、部活動で多くの経験を共にすごしたかけがえのない友人とは別に、15歳から18歳という人生の中で少しだけ特別な時間において精神的な交流を交わしていた友人がふたりいます。ふたりはそれぞれ、私にとっては全然違う性格や趣味や関心を持っており、家族との関係やほかの友人達との対峙の仕方もまったくちがっているように思えました。私たちはみんなちがっていたけれど三人でよく一緒に過ごしました。

 

彼女らの持っている世界は私の知らないことに満ちていたし、私の考えていた思考も必ずしも同意が得られるわけではなかったが、私たちはときどき、不必要に拡張高い文体でハイソな主題を持ち寄って「交換日記」のようなものを通してお互いの思考を読み合ったり、その間私たち三人の輪郭に外在する空間で何が起こっていたかということがほぼ意識されないくらい、議論に没頭することもありました。そのときに語られたことは、哲学の詳しい知識がなにもなかった私には言葉遊びのようにも聴こえたし、退廃的な思想には必ずしも賛同できないままそのうちのひとりの語る内容を消化不良でのみ込んでいることもありました。交換日記なんていうと可愛らしいですが、今思えば、あんな可愛くない交換日記が2000年の札幌の女子高生によってこつこつ付けられていたなんて、そのこと自体が可愛らしいことだとも言えます。

 

そのうちの一人はものすごく学校の成績が良い人で、ちなみに私も相対的にとてもよかったと言えますが、彼女は理系で、もう一人の友人は数学が大嫌いで、モノを書くセンスが素晴らしく、思想に詳しく、典型的な文系でした。わたしは非常に中途半端だったので数学もサイエンスも好きでしたが、なんとなく文系でした。理系の彼女は医学部に進学して医者になり、文系の彼女は文学部に進学しました。私は一年浪人して京都大学の、やはり文学部に進学しました。

 

二人は北海道におり、私はここを離れました。

 

私たちは時々会い、近況を話しました。私たちは離れて半年ぶりに会っても、一年ぶりに会っても、こんな言い方はおかしいのかもしれませんが、何も変わらないようでした。何も変わらないというのは、私たちを取り巻く環境や直面する問題や、生きていること、生きていくことへの漠然とした期待や不安が具体的なレベルで移り変わって行ったとしても、そのことよりももっと深いところにある何か大きな部分は私とその人の関係においてゆがんだりしないという直観です。そしてこのことはある程度ほんとうでありました。

 

医者になった彼女とは今でも表面的に形を変えながらしかしいつも私は彼女の人生のことを応援しているし味方しています。

 

ちがう大学でしたが、文学部に私よりも一年早く進学し、おそらくは先生になるために勉強していた友人にはもう会えなくなりました。彼女の送ってくるメールや書くものや口語で話しているときですら何かひっかかってくるような特別な感じが私はとても好きであり、それがもう発見できなくなってしまったことは、存在の喪失感というよりもむしろ自分が生き続けるためのモチベーションを失うこととか、世界に対する絶望感とか、そういうけだるくてしかし取り払うことの出来ない、また、全く取り払いたくもない身体的感覚をもたらすものでした。

 

ある類いの小説を読んだり、ふと一人で札幌の街を歩いたり、あるいは昔自分が書いていたものを読もうとするときなどには、彼女がそこにいるような気がします。彼女の言葉感覚が、自分の中に入ってくるように感じる瞬間があります。そんなことは勘違いかもしれないし妄想かもしれません。ただ、そう感じる、というだけのことなので。

 

私がこれからも生きていて、必要な食物を摂取するおかげで活動するためのエネルギーがあって、何かを書いたり考えたりできるための体系的な思考力が与えられるのだとすれば、私には書きたいものがたくさんあります。それは私の意志であるかどうかさだかではないことだが、逆説的なことだが何年も経った後に今はそのことが、死なないためのモチベーションの一つになるということを理屈でなく感覚として感じることができるのは、たしかに、すこしだけしあわせなことであるように、いまここにある私の身体と頭は思うようなのです。

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