畑田久美 大きなパレットで描く、色彩の画家 / Kumi Hatakeda, Peintre

畑田久美の絵は、前向きで強く、そして鮮やかだ。一目見たら忘れない、特徴あるかたちの捉え方と、明るく確信を持った色の配置。大阪で国際商学を学び大学を卒業した彼女が、絵を学び始めたのはフランス、パリにあるポール・ロワイヤル・アカデミー(Académie de Port-Royal)でのこと。2005年、若き画家の卵だった畑田久美は、力いっぱいアカデミーの扉を開けた。

学校の美術の時間、嬉々として熱心に絵を描いていたことを除けば、日本では一切美術のエチュードはしてこなかったそうだ。つまり、畑田久美という画家は、フランスのアカデミーで育まれ、認められながら日々進化し続けている一人の日本人アーティストなのだ。

Kumi HATAKEDA, Les échecs, 70×70cm

彼女がフランスに渡ってから、画家として6年間の日々を過ごしたアトリエにおじゃまさせていただいた。(Académie de Port-Royalのsite) 学長は、畑田久美の師匠であり、彼女が最も尊敬する画家であるジャン・マキシム・ルランジュ(Jean-Maxime RELANGE)。バカンス前の妙な時期の訪問と、ところ構わずの写真撮影を快く受け入れてくれた。若きアーティストとのツーショットにも快く応じてくれた。(二人でバラの花まで持って、ポーズをキメようとしている。チームワークは完璧そうだ。)
なるほど、師匠を心から尊敬でき、信頼出来るということは、真似たり参考にしたりしながら自分の型を作っていくようなワザモノを学ぶ際には特に重要なのだ。

Jean-Maxime RELANGE and Kumi HATAKEDA

以前、毎年グランパレで行われるFoire (siteはこちら) に彼女が出展したときにも一度お会いしているのだが、この師匠がいかに生徒たちを熱心に指導し、個人を尊重しながら芸術を教えてきたか、彼らの関係をちらりと見るだけで、とてもよく理解る。彼女自身は「最も信頼している師」と彼のことを語る。

昨年2010年、畑田久美はパリのポール・ロワイヤル・アカデミーでグランプリを受賞する。グランプリ受賞者の個展は、パリの中心、シテ島内のギャラリー、Galerie LeHalleにて2011年2月3日より行われ、間の会期中、多くの美術ファン、畑田久美ファン、フランスの美術コレクターたちが訪れた。会場に黒いドレスに身を包み現れた小柄な画家は、大きなキャンバスいっぱいに明るくはっきりとした沢山の色彩を楽しく踊らせることのできる、超パワフルなアーティストだ。(会場の様子はギャラリーのHPを御覧ください。)

Kumi HATAKEDA, La Belle, 55×46cm

私はこの画家の色の鮮やかさが大好きだ。目にしたことのある風景であるのに、画家の視線によって異化されていて、描かれた対象について一生懸命思いを巡らせる瞬間も好きだ。その瞬間こそがまさに鑑賞者が畑田久美ワールドに引き込まれる瞬間であるからだ。作品を見るものが、絵を前にして、それが何か、何を意味するか、何を伝えたいのか、じっと考えているとき、鑑賞者は文字通り芸術家の世界の虜になっている。見えているものに対し、いまだ解釈を与えられずにいるその瞬間だけは、私は私の言葉を持っていない。提示されたものに率直に対峙している幸福なひとときである。彼女の作品は、豊かな色彩を伴いながら、このしあわせな時間を私達に経験させてくれる。

Kumi HATAKEDA, Eclats d'Aulx, 100×100cm

Kumi HATAKEDA, Rythmes de legumes, 100×100cm

フランスに来て、ゼロから絵を学び始めたことには大きなメリットがあったと彼女は語る。子供の時から学びたかったことを毎日疲れきるまで真剣に取り組むことのできる、日常的だがかけがえのないしあわせ。
ここからは私の勝手な推測に過ぎないが、信頼出来る師匠や話のできる仲間に恵まれてすら、制作とはおそらく孤独な仕事であるのだろうし、表現者は葛藤と闘いながら彼らの表現活動を行なっているのだと思う。描きたいもの、描かれるべきもの、それをどのように描くべきかという問題をめぐる6年間という時間は、彼女が悩みまくるために十分長い期間であっただろうし、これからも沢山の鑑賞者と「しあわせ」を共有するために、畑田久美の表現は進化していくのだろう。

彼女はシャガールが好きなんだそうだ。シャガールはご存知のように「色彩の画家」とか「愛の画家」と呼ばれる。生涯ロシアとフランスを行き来しながら、生涯愛した妻をアメリカで亡くしたあと、フランスで晩年を過ごした画家である。たしかにシャガールはとても素敵な色で素敵な構図で絵を描く。
彼女の色彩の源であるパレットは、パレットの板の部分から20センチ以上盛り上がっており、もはや絵の具の彫刻とも言うべき代物である。このパレット、実は作品より高価だとの噂もきく。「いちいち洗わないの〜。」と笑顔で説明してくれたが、毎回洗わないこととパレットを彫刻作品にしてしまうことは別次元である。次回個展をされる際にはぜひとも一緒に展示していただきたい、彼女の制作の思い出がぎっしりと詰まったパレットだ。

artist's palette

パリで6年間、日本と異なる光の色や緑や人々を目にした彼女はこれから、もっと新しいものを見つけるために旅に出るのかもしれない。シャガールが晩年を過ごした南仏の光を体いっぱいに浴びるために。もし仮にそうだとしても、この色彩の画家はずっと、パリが育んだ画家でありつづけるだろうし、パリの光の色を忘れることはないに違いない。

彼女の恩師であるジャン・マキシム・ルランジュは、2010年の畑田久美グランプリ受賞に際し、以下の様な言葉を述べている。

   畑田久美の絵において、もっとも驚かされるもの。それは、熟考された、しかしこの上なく素直な表現。彼女が主題とする静物、裸体、あるいは風景は彼女の効果的な表象の仕方と天才的な構図のセンスによって、完全に捉えられ、従順なモデルとなっている。(中略) 豊かな色彩を使い、彼女が見捨てる色は一つもない。すべての色を知っており、そのすべてを愛している。キャンバスがすっかり色で覆われた時、色調への深い愛をもってこれらを完全に、そして思慮深い方法で調和させる。それは彼女にしかできないことだ。

謝意:バカンス前に無理を言ってお邪魔させていただきありがとうございました!
(インタビュー:2012年6月28日)

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