04/29/13

新聞女論 vol.1 新聞女@グッゲンハイム美術館 – 新聞は纏うとあったかい。/Newspaper woman @guggenheim museum

本記事は、これより第三弾に渡る新聞女レポート&新聞女論の第一弾、 新聞女論 vol.1「新聞女@グッゲンハイム美術館- 新聞は纏うとあったかい。」です。

 

Newspaper Woman wearing  Shozo Shimamoto's painting

Newspaper Woman wearing Shozo Shimamoto’s painting

神様の偏西風が逆向きに吹いて、全く訳の分からないまま、私を乗せた飛行機はぐいぐいとニューヨークに引っ張られ、私がグッゲンハイム美術館の裏口に侵入したのは、19時半すぎ。「新聞女パフォーマンス@グッゲンハイム美術館 in NY」(Art after Dark, site )の開始時間の1時間以上前だ。本来JFK空港着予定が19時55分で、そこからうまく渋滞がなかったとしても、美術館に着くのは22時近くなりそうだったのだ。ミステリーである。私はその前日も飛行機でも寝ておらず神様の追い風のせいで頭の芯がしびれており、図々しいとはもちろん思いながら、準備中で確実に大忙しの西澤みゆきさん(新聞女, 新聞女HP)にコールしてもらった。新聞女はまだ新聞を纏っておらず、白いぴたっとしたカットソーを着ていた。彼女は私が着いたのを喜んでくれ、私はとてもわくわくし、三日分の荷物を詰めたちっちゃいスーツケースを引きずって、彼女が手伝わせてくださるという制作の現場にひょこひょことついていった。


kobe, 2012

kobe, 2012

私が新聞女パフォーマンスに出会ったのは昨年、2012年5月12日に神戸ファッションミュージアムで行われた記号学会においてである。小野原教子さんが実行委員長をされた『日本記号学会第32回大会 「着る、纏う、装う/脱ぐ」』(JASS HP)の学会第一日目、アーティスト「新聞女」が現れて、たくさんの研究者とか大学の先生とか学生さんで溢れる学会の会場がたちまち新聞で覆い尽くした。彼女は台の上で新聞一枚でぐるりと回りを覆われながら、そのなかで、全部脱いで、裸になって、ドレスを纏った。
(記号学会でのパフォーマンスの写真やコメントは以下ブログ うきうきすることが起こった。日本記号学会 5月12,13日 神戸にて。Part1

after the performance, kobe, 2012

after the performance, kobe, 2012

ダンサーの飯田あやさんらによる新聞の舞にうっとりしている間に、周りの大人たちが笑顔で新聞だらけになっていく。みんなが楽しそうに、「私にもぜひ新聞巻き付けてくれ」と遠くにいた人たちもどんどん新聞女のほうに吸い寄せられていく。新聞の海のヴォリュームの中からわき上がるように高く高く登って、いつの間にかデコルテのロングドレスにエレガントな日傘を携えたの超笑顔の女が頂に姿を現し、パフォーマンスは完成した。纏った新聞はあったかくて私はとても幸福だった。彼女のパフォーマンスに初めて取り込まれた日のことだ。

 

グッゲンハイム美術館から直々のインヴィテーション。新聞女と新聞女ズ、そしてAU(Art Unidentified)の一団はニューヨークの郊外アーレンタウンを拠点に2013年2月初頭にアメリカに渡り、そこでFUSE Art Infrastructureの支援を得て寝食を共にしながら、 »Lollipop »(lollipop itinerary)という一連の企画でアーレンタウンとニューヨークで連日制作発表の多忙且つアーティスティックな日々を送っていた。グッゲンハイム美術館からのパフォーマンス依頼が届いたのは、彼女の最愛の師匠嶋本昭三さんが亡くなったその瞬間であったということを知る。全ては、小さな人間には手の届かない遥かに大きな「なにか」にうごかされた運命なのである。彼女たち数名は意を決して帰りの飛行機チケットをどぶに捨て、来る3月9日夜、嶋本ミーム*を共有する者たちのエネルギーでグッゲンハイム美術館を新聞で覆い尽くすことを誓ったのであった。私は突然の渡米を決めた。私はアメリカに行ったことが無い。自分がアメリカに行くというのはとても不思議に思えた。京都からは吉岡洋さんが具体と新聞女についてのインタビューを受けたりするため渡米する予定で、私もいっしょに新聞女のパフォーマンスを体験することにした。この記念すべきパフォーマンスのために、仙台の中本誠司美術館は嶋本氏の作品を西澤みゆきがグッゲンハイムのスロープで衣装として纏うことを許可し、当美術館からも当パフォーマンスへの協力者がかけつけ、ユタ州からは元新聞女ズの強力な助けがあり、フロアに設置された巨大新聞と新聞女号外の制作者やニューヨーク在住の知人協力者、そしてもちろん一ヶ月間連日制作発表を共にしてきた新聞女ズの中心に、笑顔で皆を率いる新聞女の姿があった。新聞女は、笑っている。舞台裏で制作に汗を流す仲間たちに指示を出し、自らも運び、走り、彼女のエネルギーがそれが遠くにいても感じられたりするなにかであるようにまばゆかった。

wearing her beautiful dress made of Shinbun

wearing her beautiful dress made of Shinbun

 

舞台裏にはたくさんの仲間たちがさすがはプロの手早さで作業をしており、私なんかが急に邪魔しにやってきて説明していただく時間や労力を割いてもらうのすら恐縮だったので、見よう見まねで出来るだけ頑張った後はジャーナリストに徹して写真を撮りまくろう(つまりサボり!)とひとり決意し、それでも教えていただきながら皆さんの巧みな新聞さばき/はさみさばき/ガムテープさばきを盗み見しながら、作品のほんの一部だけ制作に貢献した(ような気もする)。それぞれの分担作業に取りかかる前に、ボス新聞女から皆にパフォーマンスの段取りの説明があった。このパフォーマンスはなんと、21時から24時までの3時間持久レース、幕開けはPlease walk under hereの裾が30mにも及ぶレースでできた新聞ドレスでの登場。その後グッゲンハイムの名物スロープを利用して様々な新聞コスチュームを纏ったパフォーマーがヴィジターを巻き込んでパレードする、パレードが終わるとフロアでは巨大テディベアがどんどんその実態をあらわし、その傍らシュレッダーされたモサモサの新聞を生やしたニュースペーパー•モンスターがそれをフサフサさせながら踊る。フロアにいる人は、演歌や新聞女のテーマというジャパン的BGMに乗って「半額」とか「30円」のレッテルをぺたぺたくっつけられながらそこにいるだけで面白くなってしまう。そして、スロープには大きな「gutai」の文字をバックに嶋本昭三作品をエレガントに纏う、みゆきさんの姿が…。

Newspaper Woman's newspaper, special edition

Newspaper Woman’s newspaper, special edition

 

Princess !

Princess !



フルで3時間続くパフォーマンスなんて、いったいどんな体力であろう。しかも彼女らは連日の制作•発表•制作•パフォーマンスの多忙の中で寝ずに今日の日に突入しているという。フロアは入場者で満たされていく。Please walk under here ! の長い裾を皆で丁寧に支え、スタンバイ状態に入る。ああ、なんて、皆を巻き込むパフォーマンスはただひたすらにワクワクし、そこに存在するだけで楽しいのだろう。Please walk under here ! は新聞女の師匠、嶋本昭三氏の「この上を歩いてください」(Please walk on here, 1955)のオマージュである。女の子のスカートの下(というか中?)を歩く。めくり上げられたスカートの内側をあなたは堂々と歩いてよい。その長い長いスカートの裾はとても繊細なレース模様が施されており、それをばっさばっさまくり上げながら、観客であるあなたは中に取り込まれるのだ。盛大なスカートめくりであり、あなたはそれを覗く者となる。

"Please walk under here" goes on

« Please walk under here » goes on

Newspaper Woman appears in public !

Newspaper Woman appears in public !

with 1000 visitors

with 1000 visitors

fantastic !

fantastic !

パレードでは写真家のヤマモトヨシコさんが撮影された素晴らしい作品がパネルとして掲げられ、新聞女と新聞ドレスを着た女たち、そして巨大ジャケットを着た普通のサイズの人たちが練り歩く。このデカジャケのコンセプトは「着てたのしい、見てたのしい」。ファッション科出身の西澤みゆきの手にかかりジャケットは新聞と言えどきちんと裁断され、(巨人使用だけど)リアルな洋服の作りとなっている。着るととにかく面白いこのジャケットは「吉岡洋が着てもアホに見えるところがポイント」だとかなんとか。このジャケットを着て改めて思ったのだが、新聞は普通の服や紙より明らかにあたたかい。それがただ何枚も重ねられたり文字が印刷されているためだけでなく、新聞女とその仲間たちが創り出すそのものたちは、纏うととてもあたたかい。

Yoshiko Yamamoto's picture works

Yoshiko Yamamoto’s picture works

in her famous giant jacket, Parade

in her famous giant jacket, Parade

Half price

Half price

 

これらの大量の新聞は、アーレンタウンで彼女らの活動を支援したFUSE Art InfrastructureのLolipop Co-Directorでアーティストのグレゴリー•コーツが現地で入手してくれたものだそうだ。素晴らしいディテールのレースのドレスも、労力を要求するシュレッダー•モンスターのコスチュームも、可愛い巨大テディベアも、その一夜限りのニュースペーパー•ドリームを演出するために生み出され、そして、処分される。新聞女の作品はダイナミックで、パフォーマンスはエネルギーに満ちている。それらが全て撤収されて、片付けられて、元の世界が舞い戻ってくるような瞬間は、なんだか奇妙にすら感じられる。しかしそこには、たとえば夏が終わったときのような哀愁や寂しさは漂わない。なぜなら、一度新聞女に出会った者はその日の出来事をもう二度と、忘れることが出来ないからだ。そのエネルギーは出会ったあなたの中に既に送り届けられ、それはより多くの人たちと「ハッピー」を共有するために、増殖を続けるのみである。

 

a big teddy bear after the performance

a big teddy bear after the performance

elegant lace dress after the performance

an elegant lace dress after the performance

「いま目の前にいるみんなが喜んでしあわせにいれるように。地球の誕生から様々な生命が繰り返されてきたように、その大きな生命体の一部として。作品は残らなくても、みんな(や地球)がニコニコはっぴーでいれることに貢献したい。」(西澤)

(グッゲンハイム美術館でのパフォーマンス、その他の写真はこちら
*嶋本ミーム ミーム(meme)とは人から人へと行動や考え方を伝達する文化的遺伝子のこと。京都ビエンナーレ(2003)では嶋本昭三と弟子の作品を集めた「嶋本昭三ミーム」展が開催された。

新聞女は明日から三日間(4月30日ー5月2日)、高の原AEON MALLに現れる。

(リンク http://www.aeon.jp/sc/takanohara/event/

日程 / 時間
・4月30日(火)
13:00~高田雄平 自分だけのブレスレット作り
15:00~新聞アーティストと一緒に巨大テディベア作り
・5月1日(水)
13:00~岡田絵里 はし袋でパレードしよう
15:00~新聞アーティストと一緒に新聞ドレスで館内パレード
・5月2日(木)
13:00~八木智弘 自分だけのミサンガ作り
15:00~巨大新聞こいのぼりを作ってトンネル遊び
場所:2F 平安コート他

 

「新聞女論  vol.2「アートは精神の解放」 – 裸のたましい、ハッピーを伝染する。」もお楽しみに。