09/12/19

ホメオパシー(同種治療)について9脱線2 「葉脈が浮き出ているタイプのキャベツを買いなさい。」

ホメオパシー(同種治療)について 9(2019年9月13日)
脱線 その2 「葉脈が浮き出ているタイプのキャベツを買いなさい。」

そういえば、せっかく乳腺炎がらみで処方されるホメオパシーをひたすら列挙したついでに、処方箋には記載されないのだが、とにかく勧められたケアについて、この機会に書き留めたいと思う。実は、この記事はホメオパシーについて書いているけれども、この(ちょっと冗談みたいな)脱線2はそこそこ大事な話だと思っていて、なぜなら、個人化された医療であるホメオパシーはひたすら繰り返している通りエビデンスがなくプラセボ同等とみられているけれど、そもそも一人一人が異なる個体である個人の身体をさらにはその生活習慣や環境まで全体を見渡して処方を行うホメオパシーでは、リメディーが効いたか効かなかったか、結局その個人でしか実験不能なところがあって、つまり、実践したその人にとって効果があったと認識されれば、それは薬が症状に働いたというに十分なのである。したがって、以下に書くキャベツの話は、それこそ日本ではコテンパンに言われてきた民間療法だけれども、今日でも大真面目に推してくる助産師がいて、一定数以上の授乳中の女性がキャベツでケアしたことがあり、そのうちの一定数以上の患者が「キャベツ湿布は効く」ことを経験していることを踏まえ、白菜でも小松菜でもチコリの葉でもなく、「キャベツ」がなぜ乳腺炎で湿布に使えと言われるのか、いや、別にキャベツが他の野菜に対して特殊だということを言いたいのではなく、むしろ、ただのキャベツがどうやって一定数以上の痛がってた女性を救ってきたのか、考察してみたい。

話を始める前に、「は?なになに、キャベツキャベツってさっきからなんの話?」という方のためにざっくりキャベツにまつわる歴史的な療法を紹介しよう。

一聞すると、風邪の時梅干しをおでこに貼るといいとか、ネギを首に巻いて寝るといいとか、おばあちゃんの知恵袋ちゃうん?と思えるのですが、「乳腺炎の時(乳房が腫れて熱を持っているとき)キャベツの葉を乳房に貼りなさい、炎症が取れて乳の出が良くなるよ」というのがあるのです。おばあちゃんの知恵袋じゃなくて、医療のプロである助産師に大真面目に言われる。え、キャベツ?ときき返そうものなら、目の奥をまっすぐ見つめて、「葉脈が浮き出ているタイプのキャベツを買いなさい。」と彼女は言う。はあ、葉脈の浮き出てるタイプのキャベツ、あれね。(画像を参照。普通の白キャベツじゃなくて、葉っぱがもこもこと盛り上がってヴォリュームのあるやつだ。)

キャベツによる療法とは、熱を持っている乳房に冷やしたキャベツの葉を湿布することで、熱や痛みを緩和し、乳腺の詰まりを解決しようとするものだ。さて、調べても、なぜキャベツが(他の葉菜じゃなくて、どうしてもキャベツが、しかもどんなキャベツでもいいわけじゃなくて葉脈のもこもこのキャベツが)優れた効果をもたらしてくれると断言されてるのか、どうやって乳腺の炎症を取るのか、乳腺の詰まりがどんなからくりで開通するのか、キャベツが私の乳に何をしてくれるのか、正直一切わからない。(葉脈のモコっとしたキャベツじゃなくても白キャベツでもいいと言う人もいる)あまりにわからないので、探求は続く。そうすると、日本でもキャベツ湿布は助産師のカリキュラムの中に登場するほどポピュラーな療法であることを知ったけれど、同時に、それはエビデンスの無さから今日ではだいたい「こんなものを真面目に薦めるなんてありえん」と一掃されていることも知った。(さらには日本のキャベツ湿布は乳首の部分は穴を開けて貼るように指導しているらしいことも知った!)

疑問は尽きない。

・葉は一回きりで効き目がなくなってしまうので次々新しい葉を使うべきなのか、それともなんども使えるのか。

・何度も使い回しできるとして、どうしたらいいのか。冷やしたら効き目がチャージされるのか。

・何分くらい乳房に当てていればいいのか。

・何という成分がどう炎症に作用するのか。

彼女は自信満々に言った。「処方したホメオパシーはもちろん、キャベツはむちゃくちゃ効くから、帰り道キャベツを買ってすぐに実践しなさい!授乳前に毎回貼るといいわよ!葉脈のモコっとしたやつね!」

キャベツだけに優れた乳腺の炎症を取るための成分があると、私は思っていない。ひょっとしたらパラレルワールドではキャベツじゃなくてアスパラだったかもしれない(いや、棒状の形状では胸に貼れないし不便だからそれは無理か…)同時に、大真面目な助産師さんたちと助産師さんたちに「いや~、こないだ教えていただいたキャベツ湿布、めっちゃ効きましたよ!」とキャベツ湿布サポーターとなった患者さんたちが嘘を言っているわけでも、物事の効果を見極められなくなっているわけでも、非科学的な物事が大好きなわけでも、ないと思う。彼女らにとって、キャベツ湿布は窮地を救ってくれた代物だったのだろう。つまり、<効いた>と認識されたんだろう。その限りで、キャベツ湿布は、その役目を十分にになったことになる。例えば、何の客観的エビデンスがなくて、成分とか効能が立証されてなくて、全く効き目がないと述べる人がたくさんいたとしても。

ちなみに、効く効かないの前に、別に毒はなそうなキャベツ湿布を批判するもっとも説得力ある説明だと、野菜の表面には多数の細菌が付着している可能性があって、生野菜をまだ食べないし腸内細菌の発達や消化機能が未発達の新生児や乳児が、キャベツ湿布のせいで乳房に付着していた悪い細菌(リステリア とか)を摂取してしまったら危険だ、と言うもの。キャベツにどんな細菌がついている可能性があるのか、詳しくないのだが、何とも恐ろしくなる説明である。

まとまりのないキャベツ湿布談義になってしまったが、私の結論は以下である。

キャベツには、乳腺炎に効く成分があるわけじゃないと思う。ただし、キャベツ湿布に救われた切羽詰まってた女性がたくさんいるのは馬鹿げたことじゃなく本当だと思う。キャベツ湿布のポイントはキャベツの葉っぱのちょうど素晴らしい形状とひやっとする温度と、(葉脈がモコっとしたタイプならなおさら素晴らしい)ひんやり感を効果的じわじわに乳房に伝えるテクスチャーだと思う。キャベツ湿布の効き目は以下のように分かれる:

キャベツ湿布実践の結果、

①ひんやりして気持ちが良かった・熱が取れた・実践しているうちに乳腺炎が落ち着いた(偶然、タイミング的に)=キャベツはすごい!

②良くならない・症状が悪化した=キャベツなんか効かねーよ!

このいずれかである。ネガティブフィードバックは助産師の個人のキャビネットではなかなか吸い上げにくいだろう。なぜなら、全然効かなかったら、同じ医療者のところに戻ってこないかもしれない可能性が多いから。一方で、効いたら、そのプロのところにまた戻るから。だから助産師たちはポジティブフィードバックをこの件に関しては耳にしやすいと私は予測する。

今回キャベツの話ばっかりだったのだが、効き目の判断の下りなんかは、特に、効く人と効かない人の両方がいて、どちらも嘘つきなんかじゃないと言う点については、私たちは割といろいろなことを、一つが正しければもう一方は誤っていると言いがちな価値観を植えつけられていることを思い出して、そうとも限らんと一歩後ろに下がって考えてみるために、意味があるのではないかと思う。

09/12/19

ホメオパシー(同種治療)について8 リメディーの原料と効き目の例

ホメオパシー(同種治療)について 8(2019年9月6日)
リメディーの原料と効き目の例

ヒキガエル、というのだろうか。フランス語ではアマガエルのような小さいやつじゃなくてこういうドッシリしたカエルをクラポー(crapaud)という。小さいカエルであるグルヌイユ(grenouille)よりもキャラが立っていて、個人的には雨が降った後の田舎道で車に轢かれて残念な感じになっていることの多い、アイツである。

個人的な話になるが、夏からの数回の助産師診察のたびにホメオパシーをたくさん処方されたのだが、その中の一つに、上のヒキガエルから作られるリメディーRana Bufoがあった。Rana Bufoのホメオパシー利用とその効能について詳しく説明した論文も見つけて、読んで見た。ものすごい多岐にわたる効能が期待されていることがわかった。あまりに長い論文だったので簡潔にいうと、背の方から分泌される毒を抽出して作られており、皮膚の化膿やリンパ系の炎症、コントロール不能な性的興奮、知的活動の衰え、感情の制御不能など行動に関する問題にも効くらしい。

あとは、ヨーロッパ蜜蜂の全身をすりつぶしたものが元になっているApis mellifica。蜜蜂が使われているというので、主なる効用は、虫刺されのチクチクする痛みや晴れ。蜂に刺されたのと似たような症状が現れる水膨れの類。このリメディーは、即効性があるけど長くは効かないので、頻繁に摂取しないといけないらしい。

また、Phytolacca decandraは、アメリカブドウとして知られ、ブドウのような実がなるが、毒性が強い。実は子供や動物にとって毒であるが、根も茎も葉も樹液も毒を持っている。大人でも、妊娠中の女性は摂取すべきでないとされる。中毒になってしまったら、吐き気、唾液過剰、下痢や血便、呼吸困難、痙攣、死ぬ恐れもあるとか。この植物はホメオパシー的には、女性の生理不順や乳房の問題、リュウマチの炎症に使われる。特に、授乳期の女性の胸の痛みや炎症(化膿の始まり)、乳首の傷などに効くことになっているので、複数の助産師が乳腺炎のケースでこれを処方していた。

それからBryoniaは中央ヨーロッパの高地に生息するヒョウタン科の植物。耳鼻咽喉の炎症を抑える効果があるほか、肺炎にも効くとか。また炎症ということではリュウマチに効き、便秘にも効く。そして乳腺炎にも。母乳が出るようにもなるとか。この植物を食べると炎症が起こるとか、どのような毒性があるのかまだ調べられていない。

Belladonnaはイタリア語でズバリ「美しい女性」。ナス科オオカミナスビ属の植物で、小さい丸いナスっぽい実がなる。根と茎に毒性があり、葉には油が浮いていて触れただけで酷くかぶれる。トロパンアルカロイドを含み、中毒を起こすと、嘔吐、異常興奮、死に至ることすらあるらしい。恐ろしい。ちなみにこの植物はベラドンナコンという薬品として実用化されている。ホメオパシー的には、熱や炎症に関わる症状に効く。粘膜の乾燥や肌のかぶれ、更年期の体の火照りにも効くらしい。ちなみに、「美しい女性」以外にもたくさん呼び名があって、黒いボタン、怒りのナス、悪魔のさくらんぼなどと呼ばれる。中世の女性はこの毒ナスを目元のお化粧するのに使用していたらしい。

この辺りはしばしば乳腺炎を含む授乳の問題に関する外来で助産師が処方するホメオパシーである。症状や処方する助産師にもよるが、だいたい1日に3回、5粒くらい飲んでくださいということだとして、4、5種類あった場合、普段飴とか甘いお菓子とか食べないので、舌下に20粒くらいの砂糖玉をダラダラ舐めてること自体が相当甘ったるく、蜂とかカエルのことを想像してみても希釈のことがあるのでやはり甘さだけが口の中に戻ってきてしまった。たとえヒキガエルエッセンスを摂取していようとも、粉々になったミツバチのカケラを水溶液の記憶程度に飲み込んでいようとも、<毒によって毒を制す!>イメージとは程遠い甘ったるい体験なのである。

(もしホメオパシーの他のリストをご覧になる場合、http://www.doctissimo.fr/sante/homeopathie/souches-homeopathiques こちらに一覧がある。)