Joana Vasconcelos /ジョアンナ•ヴァスコンセロス@ヴェルサイユ宮殿

Joana Vasconcelos/ ジョアンナ•ヴァスコンセロス

過去と現代の女たちへのオマージュ
@Château de Versailles
du 19 juin au 30 septembre 2012
site: http://www.vasconcelos-versailles.com/

ジョアンナ•ヴァスコンセロス/ Joana Vasconcelos はリスボン在住のアーティスト、現在41歳、世界で最も精力的に活動している女性アーティストの一人だ。1971年生の彼女は、2005年のヴェネツィアビエンナーレにおいて発表した、La Fiancéeという25000個の生理用タンポンをシャンデリア風に構築した作品で一躍脚光を浴び、2006年以降は、スカートや洋服などの衣類や毛糸、レースなどのマテリアルを使用した作品を数多く制作している。

村上隆がヴェルサイユ宮殿をクール•ジャパン的ポップでマンガなワールドに作り替えた2010年の9月の展覧会(site) が記憶に新しいが、ルイ14世の全盛期に建立され、フランス絶対王政の富と権力の象徴であるヴェルサイユ宮殿で、現代アーティストとのコラボレーションが始まったのは2008年のジェフ•クーンズ/ Jeff Koons (site)
から、実に最近のことなのである。

ご存知のように、ヴェルサイユ宮殿は今日、ルーブル美術館と並んで、パリの旅行者には知らない者のない観光スポットであり、時期と曜日にもよって異なるとはいえ、日々多くの旅行者が長蛇の列を作り、庭園も含めると25ユーロほどの入場料を支払って城を見学している。なるほど、たしかに一生に一回のヴィジット、と意気揚々に宮殿に足を踏み入れたところ、鏡の間に見も知りもしない現代アートの彫刻がどすんと置かれていたり、王妃の寝室に何やら不気味な髪の毛のお化けが佇んでいたりしたら、文句をいう者や批判する者が出てくるのは想像に難くない。現に、第一回目のJeff Koonsの時はもちろんのこと、村上隆の展覧会の際にも、アニメやマンガから着想されたキャラクターたちに城が侵略されることを良く思わない一部の保守的な人々から厳しい批判の声が上がった。

ヴェルサイユ宮殿のような不朽の歴史的建造物はもちろん、ただ現状を維持し、改修•保存し続けるだけでもおそらく世界中からの観光客を呼び続けることができるのかもしれない。しかし、宮殿を毎年ひとりのアーティストの作品によってまったく新しい展示空間に作り替えてしまうことは、歴史的建造物であるのとは別の次元で非常に面白い試みなのだ。ヴェルサイユ宮殿のゴージャスな外装•内装からして、たしかに展示すべき作品の華やかさやスケールの大きさが求められることは間違いない。しかし、個人的にはアイディアとして素晴らしい試みであると高く評価すべきだと思っている。展覧会が美術館やギャラリーで行われることが多い今日、無地の壁でない、しかも政治的だったり社会的だったり性的であったりと、多様なコンテクストをまとった空間で作品に対峙するという体験はとても貴重だ。

La Fiancée 2005

ポルトガル出身のジョアンナ•ヴァスコンセロスは、ヴェルサイユ宮殿における現代アート展示第5回目にして、ようやく初めての女性アーティストとして宮殿に招かれた。会場である宮殿内と庭園には16点の作品、そのうちの8点がこの展覧会のために制作された作品だ。彼女がこれまである種、フェミニスト的なメッセージを掲げて制作してきたことはまず押さえておくべきだろう。前述した最も有名な作品、La Fiancéeとその相棒のCarmenはそれらが生理用品であるタンポンで作られているとかセクシュアルな意味を含有する作品はヴェルサイユ宮殿にふさわしくないとかいう理由で、宮殿の方針によって却下されてしまったのだ。そのことについて、アーティストは失望しながら以下のように述べている。

「まず最初に問題になったのは、La Fiancéeを宮殿に展示するかどうかでした。私はLa Fiancéeと対の作品であるCarmenを鏡の間に、具体的にはLa Fiancéeをあるべき位置(つまり鏡の間の内部)、Carmenをその外側に位置づけるという構図を夢見ていました。白いタンポンでできたLa Fiancéeは純真を表し、黒いCarmenは娼婦を表しているの。これらの作品は性的であるという解釈のもと、ヴェルサイユ宮殿にそぐわないものと判断された。あたかも、ヴェルサイユ宮殿には女性もセックスの話も存在しなかったかのように!」

La Fiancée en détail

女性アーティストを招き、しかも奇しくもフェミニズム的作品を制作することで知られるジョアンナを招いておきながら、25000個のタンポンによるLa Fiancéeが鏡の間に誇らしげに吊り下げられなかったことに、現在のヴェルサイユ宮殿と現代アートとの関係性の限界を感じざるを得ない。どうなっていくべきなのか、どうなっていくのか、まだその結論は出ていないのだ。

Marilyn(PA), 2012

そういった訳で、鏡の間には、Marliyn(マリリン)が展示された。鍋と鍋の蓋で信じられないほど精密に構築された巨大なハイヒールは、女性の性的アピールとしての魅力を象徴すると同時に、依然として女性の仕事であり続ける料理や掃除といった家事仕事のモチーフ(鍋)を意味している。さらにこの巨大な寸法は、ルイ14世が宮殿を建てさせた17世紀から今日に至るまで、全ての女性たちが努力の末獲得してきた権利や自由の大きさを象徴している。この展覧会のタイトルも、 »Hommages aux femmes du passé et aux femmes modernes »(過去と現代の女性たちへのオマージュ)である。

Marilyn (PA), back

この展覧会を訪れて一番最初に出会う作品、Mary Poppinもまた、Pamela Traversの小説に現れる女性へのオマージュであり、女性参政権と女性の自由のために戦った登場人物なのである。

Mary Poppin, 2010

このMary Poppinのマテリアル使いと大きくて奇怪な生き物のようなスタイルは、展覧会後半に現れる3つのワルキューレ彫刻にまで引き継がれている。レースやカラフルな布を使い、毛糸で鉤針あるいは棒針編みされた装飾が施されている。ワルキューレは北欧神話において、「戦場における生死を決定する女」であり、女性の神性の象徴的存在とアーティストによって捉えられている。

Walkyrie Trousseau, 2009

二つの向き合った手長エビは、Le Dauphine et La Dauphine(ドーファンとドーフィンヌ)と名付けられており、テーブルの上に向き合って配置されている。ポルトガルレースが施されており、ドーファンが雄でドーフィンヌが雌である。

Le Dauphin et La Dauphine, 2012

Gardesは文字通り、番をする2頭のライオンだ。勇ましく、好戦的で、強さの象徴である2頭のライオンを、ウエディングドレスに使うレースで装飾してしまうというアイディアの背後には、戦争を好む男性性を嘲笑するようなアイロニーが見え隠れする。

Gardes, 2012

Lilicoptèreはもちろんヘリコプターをかわいくもじった、ピンクのヘリコプターの作品だ。大量のダチョウの羽毛で飾り付けたヘリコプターは、王妃マリー•アントワネットが王宮をダチョウの羽で飾りたいと述べたという言い伝えから着想を得ているそうだ。

Lilicoptère,2012

さて、ご存知のように、フランスの歴代王妃は公開出産を強いられてきたのであり、ハプスブルク家から嫁いだマリー•アントワネットも例外ではなく、Chambre de la Reine(王妃の寝室) において公開出産した。La Fiancéeはむしろ、王妃の寝室に展示されても良かったのではないかと思うが、実際にはPerruque(カツラ掛け)がこの部屋のための作品として選ばれた。Perruqueは、赤褐色の卵形の立体からたくさんの突起が出ており、その各々から様々な色の髪の毛が垂れ下がっている、どう見ても奇異でグロテスクな様相をしたオブジェだ。ジョアンナ•ヴァスコンセロスは、このPerruqueの展示をめぐって再度宮殿側と衝突することになる。この作品を展示できないのなら、展覧会は無かったことにする、と言うことによってようやく展示が認められたという。

Perruque, 2012

Perruqueが物議を醸したのは、このオブジェがただ単に、あまりにロマンティックでフェミニンな王妃の部屋に似ても似つかぬグロテスクな形をしていたというだけが理由なのではない。細長い楕円の立体はまぎれも無く、女性の子宮の中に放り出される「卵(らん)」なのである。卵に纏われた多数の突起は、固くなったたくさんの男性器のようにも見えるし、何らかの暴力的なコンテクストによって歪められ、奇形化してしまった可哀想な卵子のようにも見える。 歴代王妃の公開出産が行われたとされる「王妃の寝室」において、この作品を展示しなければならないアーティストの主張は最もであるし、それを防ごうとした宮殿側の方針が存在することも理解できる。(突起と髪の毛は実際には19個取り付けられており、それは王位に就いた子どもも含めこの部屋で出産された全ての王室の子の数に相当する。)

 純真性を象徴するLa Fiancéeと娼婦であるCarmenが鏡の間の入り口を挟んで対面する、その劇的な瞬間を体験することの出来るもうひとつのヴェルサイユ宮殿現代アート展示とはいかなるものだったのだろう。私たちはそれを、残された16個の手がかりから推測し、深い想像に身を浸すほかなく、それは悔しさにも諦めにも似た感情である。それでもアーティストは作品を作っているし、彼らは議論している。変わって行くことも、たくさんあるのである。

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