ホメオパシー(同種治療)について 2
(2019年9月3日)
ホメオパシー(homéopathie)について、前回の記事で、医学的に効果が証明されていない療法に保険適応をすることや処方を認め続けることについて議論は尽きないことを書いた。それ自体に心身への害はない単なる砂糖玉であるリメディーを処方することについて、どのような理由で厳しく批判があるのだろうか。プラセボ(偽薬)は医療としても適切に用いられることについてはその効果が認められているのだから、もしただの砂糖玉であったとしても、それがなんらかのポジティブな働きかけを患者に対してしうるとすれば、処方を全面的に禁止するまでの批判が出るまい。
戦後のホメオパシー実践では、いくつかホメオパシーによるリメディー処方による死亡事故が起こっている。日本でホメオパシーの問題について語られる時必ず引かれるのが、2010年に起こった新生児死亡事故である。これは、新生児は出血時に血液凝固の働きを助けるビタミンKを十分に持たず、母乳でもこれを補うことはできないことから、稀にある消火器や頭蓋内出血を防ぐため、今日は産院で出産するとビタミンK2シロップを処方され、これを新生児に飲ませることになっている。新生児死亡事故では、適切に与えられるべきビタミンK2シロップの代わりにホメオパシーのリメディを与えたことにより、新生児ビタミンK欠乏性出血症により新生児が死亡してしまった。
また、イタリアではホメオパシーの処方のみを受けていた7歳の子供が中耳炎を悪化させ脳に炎症が及び死亡したという事件が2017年に起きている(http://www.lefigaro.fr/flash-actu/2017/05/27/97001-20170527FILWWW00072-homeopathie-l-italie-s-emeut-de-la-mort-d-un-enfant.php)。この悲惨なケースでは、子供の両親は3歳からホメオパシーのみそれ以前も耳鼻咽喉の不調を治療してきており、中耳炎についても過去にホメオパシーのリメディーで治療したことがあったが、二週間も熱が下がらず緊急病院へ連れていったという。子供にホメオパシーを実践する親の数は決して無視できない中で、ヨーロッパでのホメオパシー見直しが厳しくなるきっかけとなる一件であったことは間違いない。
上述のような極端なケースでなくとも、反対派の主要な主張としては、ホメオパシーのリメディーを与えられて、患者がホメオパシーのみで治療が可能であると信じることによって、癌や他の病など急を要する治療に取り組むことが遅れてしまい結果的に重篤な事態を招きうるのだから、ホメオパシーに基づく処方を患者が信じてそれのみで病気が治ると考えてしまうことは危険だ、というものだ。
ここまで考えてみると、<実はこんなにも危険な(可能性のある)>ホメオパシーが一体どのようにして広く利用され、公的に処方され、その効果が信じられるところでは信じられ続けている状況が今日もあるのか、わからなくなるかもしれない。
これ以上考察を進める前に断っておきたいのが、私自身がここで行いたいのは、ホメオパシーがいいか悪いかを議論することではないということだ。ホメオパシーの実践者に対して、あるいはホメオパシーの非実践者に対して、個人的な意見の介入や批判をすることは全く目的ではない。私が心に刺さっているのは言ってみれば、「今日私たちがだいたいは信じ切っている科学的なことでは証明されない療法であるホメオパシーを、自立させ得ているものの正体はなんなのか?」、「科学的見地に基づく医療を超えた力みたいなものを、私たちは再度味方にすることができるのか?」、「その力は私たちをよりよく生き抜くいこと可能にするのか?」そんな好奇心に満ちた疑問なのである。